包茎手術体験記 No.4〈手術〉

麻酔がまあまあ痛い

 

 手術が始まるという事で手術台に下半身を露出した状態で寝転がらされ、少し待っていると、奥からおじいさんが出てきた。すると、胡散臭医が「じゃあ院長先生来たから手術はじめますね。」と言った。

 

 胡散臭医が手術するのだと思い込んでいた自分は、まるでキツネにつままれたような気分である。

 

「あの名医っぽい態度はなんだったのか」と突っ込みを入れたくなる気持ちを抑えて、大人しく壮年の医者に陰部を物色される。触り方が少し荒く、皮を被っていた自分の亀頭には、少し刺激が強かった。痛いほどではないが、腰を引きたくなってしまうあの感じだ。

 刺激で勃起してしまったらどうしようかと心配していたが、医者二人の顔を見れば簡単に落ち着くので安心である。なるほど。男性スタッフしかいないのは、そういう効果があるのかと感心した。

 

 ともかく、皮の長さを確認したりという作業が終わったらいよいよ麻酔である。これが怖い。極細とはいえ、ただでさえ敏感な部分に針を刺すのは、想像しただけで身が縮む。

 たしか、針を刺したのは、3回×2周、計6回だったはずだ。場所によって痛みの強弱は全然違っていた。最初の1回と最後の1回がものすごく痛かった

 

 思い切り顔を歪めていたら、胡散臭医が「大丈夫。頑張ってね。」と声援を送ってくれた。優しい。急なキャラチェンをするな。

 

 そんな感じで、優し医の声援もあって麻酔を耐え抜いて10秒ほどで、感覚は完全になくなった。麻酔が聞いているかの確認があった後、ついに手術が始まった。

 

 すぐ終わった。

 

 優し医と雑談してたら、いつの間にか終わっていた。「何かやってんなぁ」くらいで、途中からは手術中だという事すら忘れて、話に集中していた。

 

 終わってからも、あっさりしていた。生まれ変わった陰部も、縫合糸が飛び出ているくらいで、血だらけだったり、特別グロテスクな見た目だったりはしなかった。

 そんな事を思っていたら、優し医が包帯を巻いてくれた。その時に、消毒の仕方包帯の巻き方、どういう風にケアをすれば良いかまで、丁寧な説明を受けた。

 

 その後、痛み止めと化膿止めを飲み支払い手続きを済ませ諸々の薬を処方してもらったら、終わりである。薬の説明を受けている時に、麻酔が切れてきたのか、徐々に陰部が鈍い痛みを発してきたが、痛み止めが効くまでの辛抱だろう。

 

 クリニックに居たのは僅か80分である。あっけない。

 

 「こんな事ならば、もっと早く手術すれば良かった。」

 

 「早く支払い済ませたいし、来週からバイト頑張るかぁ。」

 

 そんな風に、のんきな事を考えながらクリニックを後にした。麻酔が頭まで効いてしまったのか、不思議なほど気持ちは穏やかだった。

 これからの期待に胸が高鳴るでもなく、お金の心配で不安になるでもなく、手術を終えてホッとしている感じでもない。本当に何も思っていない「無」である。まるで、俗世から遮断され、草木を揺らすそよ風すらも吹いていない、世界から音が消えたかと錯覚するような神々しい草原を想起させるほど、心は静かであった。

 

 何だったか。この静けさを表す言葉があったような…。